
未来を支える新品種:コーヒーの生き残りをかけた最後のチャンス
嘘のように聞こえるかもしれませんが、2050年を迎える頃にはコーヒーがこの世からなくなってしまう可能性があると言われています。
実は気候変動やリソース不足のために進まない品種改良、生産者の経済的な苦境など、さまざまな要因によってコーヒーの存続が現在危ぶまれているのです。おまけに需要はこれから数十年で倍増すると予測されているため、2050年には全世界で1.8億袋ものコーヒーが足りない状況になるとさえ考えられています。こんな危機的状況から私たちを救ってくれるスーパーヒーローは残念ながらいませんが、コーヒーの品種改良や生産者の生活水準向上を使命とする非営利団体のワールド コーヒー リサーチ(WCR)[AY1] がかなり近い存在だと言えるでしょう。Single Oも「No Death To Coffee」プロジェクトを通してWCRをサポートしており、ついにこの度、疫病や気温上昇に耐えうる新たなハイブリッド種が誕生しました。

No Death To Coffee第一弾となるStarmaya(スターマヤ)は、カップクオリティもさることながら、コーヒーの未来を考える上でキーワードとなる遺伝的多様性を持つハイブリッド種です。
昨年9月、Single O Japanのテイスティング バーを訪れたWCRのGreg Meenahan氏は、Single OとWCRのコラボレーションを称えながら「Starmayaは生産国の状況を大きく変える可能性を持っています。これまでのF1種とは違い、Starmayaは高コストなバイオテクノロジーの力を借りずとも、種子を介して繁殖させることができます。つまり世界中の生産者が、コーヒー業界の未来を変えるであろうこの強力な品種を手にすることができるのです」と熱く語りました。
コーヒー界の救世主をあなたのもとに
そんなStarmayaをシングルオリジンとして皆さんにお届けできるのをSingle O一同楽しみにしています。このコーヒーを生産したのは、No Death To Coffeeのサポーターとしてオーストラリアにも来たことがあるAida Batlle氏。栽培地となったメキシコ・チアパス州のGuadalupe Zajú農園にとって、Starmayaの収穫は今回が初めてでした。同農園はWCRが世界中で実施している新品種の試験プログラム、グローバル コーヒー モニタリング プログラムにも参加しています。 水資源の保全に配慮した環境の中、シェードツリーの下で育ったStarmayaのフレーバーについて、Single Oでコーヒーバイヤーを務めるWendy De Jongは「オレンジやレモンのような酸味、さまざまな種類の甘味に加え、トロピカルフルーツのような風味が特徴。とてもバランスが良く、特にエスプレッソにはぴったりです。そして何より、生産者や業界全体にとって重要なこの時期に、待ちに待った多収量かつ耐病性のある品種が誕生したということ自体に大きな意味があります」と Daily Coffee Newsの取材に答えました。

コーヒーの今とこれから
冒頭で触れた不足分まで含めると、2050年には2.8億袋ものコーヒーが世界中で必要になると予測されていますが、その需要に応えるのは至難の業。このまま行けば、朝の一杯を今ほど気軽には飲めなくなってしまいます! 世界的な需要拡大の背景には新興国の存在がありますが、もちろん彼らを責めることはできませんし、需要の拡大を止めることもできません。一案として、シドニーのSingle Oでコーヒーテクニシャンを務めるPhilは1ショットあたりの量を減らすことを提案しています。
私たちはさらにそこから一歩踏み出し、供給側からこの問題を解決しようとしています。WCRの創設メンバーの一人としてSingle OのWendy De Jongは8年前からコーヒーの世界における農業科学の発展に情熱を捧げ、それがStarmayaのようなコーヒーの未来を支えるF1種の開発につながりました。

注目を集めるコーヒーのハイブリッド化
他の作物同様、F1種は遺伝的差異の大きな親同士を掛け合わせることで生まれ、Starmayaを例にとれば、エチオピアの在来種とマルセイエサ種がその親にあたります。この品種改良プロセスは分子育種(遺伝子組み換え技術とはまったくの別物)と呼ばれ、自然発生的な交雑プロセスに人間が介入することで実現します。遺伝的に離れた親同士を掛け合わせてできる一世代目の作物であるF1種は、高いカップクオリティや耐病性を備えつつも、非ハイブリッド種に比べ収量が多いという特徴があります。
F1種の大きな短所のひとつとして、最近までは特別な環境でしかF1種を繁殖させられないという問題がありました。しかしStarmayaは種子繁殖が可能という重要な特徴を持っています。この特徴のおかげで、これまでF1種に手を出したくても出せなかった生産者にも新たな道が開け、今後F1種を生産する農園の数は増えていくことでしょう。

F1種のもうひとつの強み:気温上昇への耐性
「熱」はコーヒーの大敵です。ここでいう熱とはグラインダーの熱のことではなく、コーヒーノキが育つ地域の気温を指しています。というのも、StarmayaをはじめとするF1種には気候変動をも生き抜く力が秘められているのです。WCRの予測によれば、現在コーヒーが栽培されている地域の79%で、今後最高気温が30℃に達すると言われており、これはアラビカ種の栽培に適した気温(18〜20℃)を大きく上回っています。気候変動によって気温が上昇し雨量が増え、さらに天候が変わりやすくなると、生産量が減るだけでなく、疫病も広まりやすくなってしまいます。2012年以降拡大を続けるコーヒーさび病の影響は極めて深刻で、Greg Meenahan氏は「現存する品種は今世紀中に起きるであろう環境変化に打ち勝つことはできません。一例を挙げると、将来的にブルボン種は姿を消すことになるでしょう」と警鐘を鳴らします。
こんな状況だからこそ、Single Oは耐候性F1種Starmayaを皆さんにお届けできることをとても嬉しく感じています。第二弾となるMarsellesa(マルセイエサ)の販売も近々予定していますのでお楽しみに![AY1]
この世界に美味しさやクラフトマンシップ、情熱やコミュニティをもたらしてくれたコーヒー。Single OはNo Death To CoffeeやWCRが実施するチェックオフ プログラムへの参加を通じて、コーヒーに少しずつ恩返しをしようとしています。
「未来のコーヒー」Starmayaをぜひこの機会にお試しください!
(昨年9月、WCRのGreg Meenahan氏を招いてSingle O Japanで開催されたワークショップで通訳を務めてくれた Atsushi Yukutakeさん(Standart Japan)に今回このブログの翻訳もお願いしました。この場を借りてお礼申し上げます!)